日本計量新報一面記事です。2018年07月01号(3200)1面 |
私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版) 神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その19- 消耗型熱電対の導入 計量整備掛に就いて1年も経っただろうか、次は消耗型熱電対が入ってきた 検定の新技術を開発 計量整備掛に就いて1年も経っただろうか、次は消耗型熱電対が入ってきた。これは従来のカーボンスリーブに換えてクラフト紙を硬く巻いて断熱性を持たせ、補償導線と先端のコネクターを保護している。中には0.1 mmΦのR熱電対が仕込まれており、全体的に軽く、先端のみを使い捨てるタイプであった。 これを5~6社が相次いで使って欲しいと持ち込んできた。この新型熱電対に対して、しかるべきテストを行ない、その中の1社に決めるのはまた難しいことであった。素線はどこ製か、アニーリングはされているのか、から始まって、試用結果に至るまで、新入社員の私にとっては結構な負担であった。 受け入れ検査にしても、従来の0.5mmΦの検査はこれまで通りの担当がやっていたが、新しい消耗型の0.1mmΦであれば、今までと同じ手法では検査できない。そこで、まず検査に使う0.1mmΦでのパラジュウムを日本のメーカーに作ってもらった。そして、私が自ら挑戦し、在来の技術を持っている担当と意見を交わし、失敗を繰り返しながらも、この0.1mmΦでのパラジュウム検定を成功させたものである。 1社に絞り込む 一つのツールであるセンサーを取り替えようとすると、その原理が同じでも使い勝手が異なれば導入はできない。オペレーターにも試用をお願いして、どんどん使ってもらった。紙スリーブが太くて溶鋼の中で浮力が生じて使いづらいというのもあった。この意見を各社に伝えると、応答が速い社と何の返事も来ない社の2つに分かれた。後者はダメ……。先端部を細く仕上げて浮力を少なくしたメーカーが有利となった。 次には、熱電対素線のメーカーとの繋がり、これが最重要であるので、ルートと線引き処理方法を調査した。他に新しいスリーブを装着すれば常温を指し「ピー」と音が出るのも現われた。保守性に優れている。このようにしてメーカーとユーザーが情報を交わし、お互いが工夫をこらしていくところに新しい技術が生まれ、製品が誕生する。 メーカーの言うことは信用ならない頃であったから、その辺の情報確認を含めてほぼ1年はかかったであろうか。ようやく1社に絞り込んで採用が決まった。 思わぬメリット この消耗型熱電対の何よりのメリットは、溶鋼に浸漬するとすぐ測温され、熱電対は溶融し消滅してしまうので熱電対の汚染がないことであった。さらに思いもよらなかったメリットは、浸漬したところの温度が測定され、今までのようにオペレータが高いところ、低いところを選ぶことができなくなったことである(湯面の上面は高く、鍋のレンガ際は低かったので、それまでは、ベテランのオペレータは都合の良いところに温度計の先端を持っていったこともあった)。測定すべきは溶鋼の中央部の代表温度で、偏った箇所での温度ではないので、これは大きなメリットであった。 この仕事は、計量屋とは自分の部下だけでなく、オペレーターとも仲良くしてあらゆる方面から情報を集めることが大切だと痛感させられる機会でもあった。 (つづく) 私の履歴書 高徳芳忠(たかとく・よしただ)(日本計量新報デジタル版) 神戸大学計測工学科をでて製鉄会社で計量管理の仕事をした男の記録 -その19- 消耗型熱電対の導入 計量整備掛に就いて1年も経っただろうか、次は消耗型熱電対が入ってきた |