計測トレーサビリティ物語(3)
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計測トレーサビリティ物語-新 トレーサビリティのすすめ-(3) 計量計測データバンク編集部
計測トレーサビリティ物語-新 トレーサビリティのすすめ-(3) 計量計測データバンク編集部2024-06-24-measurement-traceability-story-part-3-
(大見出し)
計測トレーサビリティ物語(3)
-新 トレーサビリティのすすめ-
[写真]株式会社東亜計器製作所のJCSS認定書
(リード)
日本のトレーサビリティ制度とその運用にかかわった人々のうち、計量研究所の三氏の経験と所感を「日本のトレーサビリティ推進事業に関わった人々の証言」としてここに掲載する。証言は計量研ニュースに掲載され、日本計量新報にも転載、さらにweb情報サイト(メディア)の「計量計測データバンク」にも掲載されてきていたものである。三氏の文章は日本のトレーサビリティ制度とその運用かかり貴重な歴史記録となっている。
(大見出し)
日本のトレーサビリティ推進事業に関わった人々の証言
(本文)
日本のトレーサビリティ推進事業に関わった人々の証言-その1-
多賀谷宏氏 元計量研究所企画部門(日本計量新報98年1月18日号から)
トレーサビリティの土壌(学術会議提言の実現に向けて)
ちかごろ(1998年)私の見聞きするところ度量衡畑、電気計測畑を問わず、実態に詳しい標準研究、管理技術者の間では、昨今の欧州の標準関連行政機関の動向やトレーサビリティへの道筋づくりに疑念を持つ人が多いようである。欧州が抱える問題には様々な事情もあるようだが複雑曖昧さは多民族間の共通理解を得難い。歴史的精神文化の高さのみでは現代の広い産業技術の裾野のレベル維持や向上・変革への共通理解には直接繋がらないという事なのだろうか。
ある日の桜井健二郎さん。ところで長いトレーサビリティとの付合いを通じて私にとって忘れ得ぬ人は数多くおられるが、その中でも故桜井健二郎博士は先ず最初に挙げておかなければならない人であろう。
十年あまり前になるが、ある日の昼休みのこと、遅い昼食を共にした同僚達と新橋の第二十森ビルにあった事務所へ戻る途中、後から呼びとめられて振返ると、そこに人なつこい顔があった。なんと電子技術総合研究所(電総研)電波電子部長を辞められて光産業関連の研究組合のヘッドになられた桜井健二郎さんだった。事務所がお近くに設立されたとは承知していたが思いがけない再会だった。
こんなことがその後も数回あったが、当時私の仕事は新エネルギー関連や通産省の技術政策がらみの調査が主体になっていたり、かつて桜井さんにお世話になった計測やトレーサビリティ関連からは暫し遠ざかっていたこと、そして何よりこの時の先生は時代の最先端技術オプトエレクトロニクス研究所のリーダーだったので、とてもご挨拶に伺う気もないまま過ごしていた。ところがその空白を全く感じさせない笑顔に出喰わし私はすっかり恐縮してしまった。往年カミソリのような鋭敏な風貌を強く印象づけられていたので、この時の暖かく柔和なお顔をみて新たな懐かしさがこみあげてきた感じでもあった。
しかし後で聞いて判ったのだが、このころ先生は寄り合い所帯のとりまとめと新研究所の方向付けにたいへんなご苦労をなさっていたようである。あたら天下の鬼才をこのような雑務で夭折させてしまった官僚機構の制度疲労を思ったものである。せめてもの救いは没後この分野で優れた研究成果を挙げた若手研究者に贈られる賞に桜井健二郎の名が冠せられるようになったことであろう。
洞察力と先見性の人桜井健二郎さん。話はぐっと遡るが一九六三年前後、氏は直近の在米研究時代にNBS(現NIST)やNCSLで目のあたりにした、企業が自己責任で国家標準への接続性を確保するという、まったく新しい計測標準の信頼性維持システムの考え方、つまり米国でのトレーサビリティ関連情報を日本に最初に紹介した人である。
洞察力とすぐれた先見性の持主だった氏はまた生産現場で測定する人が自分の責任において信頼性を確保し、最終的にはなんらかの形で国家標準への接続性を保つという、まったく新しい計測標準信頼性維持への捉え方つまりトレーサビリティの概念が将来、日本にとっても重要な役割をもつことを早くから見抜かれた方でもある。帰国後、氏は産業界や行政をはじめ各方面に説かれると共に、計量研究所(計量研)の高田誠二第一部長や電総研の石毛竜之介標準計測部長にその具体的行動計画立案を示唆されたのである。
衝撃的な情報に触発。この頃私は計量研の企画部門にいたが、計量研の担当範囲内でもすでに力計(確か航空 機の負荷バランス測定用のストレンゲージ式のものだったと思うが)の検査成績書交付時に、納入先が駐留米軍関係 だった申請者から、「米国NBSに相当する日本の国家標準との接続性が存ることを明記」してほしいとの当時としては異色の要求があったことを鮮明に憶えている。
この時代、私はメートル条約(国際度量衡委員会)がらみで、国内連絡調整機関としての機能を持つ日本学術会議第5部国際度量衡研究連絡委員会(度量衡研連)への計量研窓口でもあったが、当時よく使われた産官学という言葉の中の「産」の意向の吸上げ機能がこの委員会には欠けているのが常々気になっていた。
桜井さんからもたらされた衝撃的な情報に触発されて早速、高田・石毛両部長をはじめ、その頃駐米日本大使館での第二代科学アタッシェを務め上げて帰国したばかりの東京工業試験所石坂誠一次長、それに前記度量衡研連の「時間」標準問題で面識をいただいていた郵政省電波研究所の佐分利義和部長など多数の方々のご支援を得て、産官学構成による「国際標準研究連絡会議」の設立計画を立案し工業技術院に予算措置を求めることにした。
研究予算以外での新規要求は無理かとも思ったが、淡泊で諦めの早い私にしては珍しく根気よくアタックしたので、当時工業技術院研究業務課で計量研担当だった柘植方雄氏(現地熱技術開発0x01F1社長)にはこのとき随分と御迷惑をかけてしまった。しかし氏のご尽力のお陰で予算も確保されスタートできるに至ったし、この会議設立時の人脈が後年、技振協で日本版NCSLを目指した産業計測標準委員会の設立、さらにその枠で行なったトレーサビリティ体系調査事業(昭和四十九年度)の「体系調査委員会」の編成時にも大いに役立つことになった。
その後の学術会議から。ひるがえって昨一九九七年の計量界のトップの話題を挙げるとするなら、私としては前出の日本学術会議「第5部」報告として「標準の研究体制強化についての提言」(平成九年六月二〇日)が打ち出されたことを挙げたい。理由はその中に標準研究の在り方、方向付け、成果の活用、供給体制の整備、省庁の縦割り排除による標準関係施策の一貫性確保と一元化の必要性等々、大筋として実に我が意を得た内容が盛り込まれていたからであるが、それだけでなく提言の最高責任者第5部長として、学界からではなく内外の産業界を熟知される内田盛也(うちだもりや)先生(工博 帝人顧問)の名をそこに見い出したことで一層嬉しくなったからである。
実は私がトレーサビリティ関連業務を一時離れた技振協時代の後期、ちょうど先進諸国間の技術開発政策の対比や日・欧・米の特許制度比較問題などの委託調査に専念していた頃であるが、この分野の先達でいらした先生には何度もご指導とお力添えを頂いたことがあり、今も尊敬感謝申上げている方でもあったから、その名を思いがけずもこの標準研究体制の改革検討という場で再発見できたという喜びと共に、人の出会いと縁の妙をあらためて感じたからでもある。
流麗と評すべき「内田ぶし」は不思議に接する者を元気付ける力をもっており、名伯楽を迎えて一九九八年が日本のトレーサビリティの屋台骨を支え、成長への肥沃な土壌をも提供することになるであろうこの提言の実現に向け、確実な一歩を進める年になることを切望してやまない。
(本稿は計量計測データバンクにも掲載された)
日本のトレーサビリティ推進事業に関わった人々の証言-その2-
新しいトレーサビリティ制度がもたらすもの(計量研究所熱物性部長 小野晃(当時))
本稿は一九九三年につくられた計量法トレーサビリティ制度の現状を説明するとともに、背景や同制度がはたす今後の役割等も考察している。(本稿は計量研ニュースVOLならびに計量計測データバンクニュース二に掲載された。)
はじめに
新しいトレーサビリティ制度はヨーロッパで十数年前から普及し始めたが、EU域内の経済統合の進展とともに制度導入当初のねらいは変質してきた。一方平成五年に新計量法の成立によって導入された日本の新しいトレーサビリティ制度も日本の社会にさまざまな波及効果を及ぼしつつある。また計量標準に関する国際相互承認は、一世紀を超えるメートル条約の歴史の中で最大規模の事業となるであろう。これがもたらす世界的な影響は非常に大きい。
ここでいう「新しいトレーサビリティ制度」とは二つの制度を含んでいる。一つは標準の供給制度であり、他は校正事業者の認定制度である。標準の供給は以前から国の仕事として行われてきたが、民間校正事業者の認定制度はごく最近の制度である。
ところがその認定制度の導入が、古い標準供給制度にいろいろな変革を与えている。「新しいトレーサビリティ制度」としてここでは、新たに導入された校正事業者の認定制度だけでなく、それに伴って引きおこされた標準供給制度の変革もとりあげる。本稿では、新しいトレーサビリティ制度の現状を解説するにとどまらず、トレーサビリティ制度の背後に潜むもの、今後トレーサビリティ制度がもたらすと考えられるさまざまな事象に関して考察を試みる。
国家計量標準の信頼性と透明性
従来、国家標準をつかさどる機関の活動は扱う精度が著しく高いため、一般からすると非日常的である。いちいち問わなくても国立標準機関はしっかり標準供給をやっているとの前提があったと思われる。ところが不確かさの厳密な評価は技術的に容易でない面があり、国立標準機関といえども十分に行えているとは言い難い面がある。
一方経済がグローバル化し、部品、製品、サービスがあらゆる国から流れ込み、あらゆる国へ出ていく時代となると、世界には必ずしも国家計量標準に問題がない国ばかりでないことも見えてくる。まずEUの経済統合の過程で、参加国の間でそのような懸念が顕在化した。
また先進国同士の間でもそのような通商の問題がなかったわけではない。特にアメリカは計量標準に関して独自の考えを持ち、以前から規制当局や産業界が他国企業に対してNISTトレーサブルな計測を要求することがしばしばあり、日本に限らずどの国も対米通商に関しては、国家標準の同等性について潜在的な問題をはらんでいた。
新しいトレーサビリティ制度の第一のポイントは、これらの問題に包括的な解答を与えようとしていることである。国立標準機関といえども互いに標準が同等であることを、科学的・技術的な根拠をもって外部に示そうとしている。それが国立標準機関同士の国際比較であり、その結果の公表と相互承認である。同等性を示すということはすなわち、同等でないことを示すことをも意味している。そのために明確な手続きを規定して国家標準の国際比較が行われることになり、その結果にもとづいて各量とその範囲ごとに互いに同等な標準機関名を明示することになった。
トレーサビリティについて
トレーサビリティの定義:不確かさがすべて表記された、切れ目のない比較の連鎖を通じて、通常は国家計量標準又は国際計量標準である決められた標準に関連づけられ得る測定結果又は標準の値の性質。
<出所:JISZ9325(校正機関及び試験所の能力に関する一般要求事項)(ISO/IECガイド25)>
不確かさの定義:測定値が、一般的に見込みとともに、間違って見積もられる範囲を特徴づける目的で評価される結果。
<出所:国際計量基本用語集(VIM)>
国際トレーサビリティの合理化
現在国家計量標準の国際相互承認協定締結に向けて議論の途上にある問題であるが、国家標準の同等性の表明に際して、すべての国立標準機関が自己の一次標準の国際トレーサビリティを明示する方向で調整が進んでいる。つまり自国の一次標準を定義にもとづいて自己で設定したのか、もしそうでなければどの国の標準機関で校正を受けたのかを明記することになると思われる。
実際問題として標準を定義にもとづいて自己で設定している国は世界的に見ても多くない。量にもよるがおよそ十ヶ国、あるいはそれ以下というところである。ほとんどの国は自国の一次標準の校正を他国の標準機関で受けることにより、国際標準へのトレーサビリティを確保している。しかしながら現実の問題として国家標準の国際トレーサビリティ体系は非常に複雑かつ不透明である。ある国の国家標準がどの国にトレーサブルになっているかは、他国からは知る手段がない。国家標準に関して国家間で確固とした校正の契約ができているケースはまれであろう。そのときそのときの事情によりトレーサビリティを確保する先が一定しないことの方が多いかもしれない。
もし現在議論されている方向で調整がなされるならば、相互承認を得ようとする国はすべて自国の国家標準のトレーサビリティ先を明示することになる。その結果世界のトレーサビリティ体系が関係者に明確に見えてきたとき、その影響は小さくないであろう。信頼性が高い校正を定常的に行っている国がどこかということが見えてくる。信頼性の高い校正が確実な契約のもとに受けられるような国際環境があることが分かれば、一次標準を自分で設定することのコストパフォーマンスを改めて見直す国も出てくるであろう。国際相互承認が進むに連れて標準の「安全保障論」は弱まり、国際トレーサビリティ体系の合理化が進むと考えられる。これが新しいトレーサビリティ制度がもたらす第二のポイントである。
校正をする立場と、校正を受ける立場の両方から、各国の標準機関は合理的な政策決定を下せるような国際環境が遠からずできあがるであろう。
不確かさ評価における校正主体の責任
新しいトレーサビリティ制度の第3のポイントは、校正の不確かさを、校正を行う主体が自己の責任で評価することとした点である。従来は、オーソライズされた「しかるべき手順」で校正を行えば、それだけで十分な信頼性が付与されると考えられてきた。しかしながら今日では、「しかるべき手順」で校正を行ったとしてもなお校正の不確かさは存在するし、信頼性は必ずしも十分でないとの考えが主流となっている。
また「しかるべき手順」といっても世界の国々はさまざまで、それだけでは信頼感はほとんど得られないとの懸念もある。そこで計測あるいは校正に対して科学的に根拠のある不確かさの概念を導入してより確固とした信頼性を付与しようとしている。そのとき重要な点は、不確かさは誰か別の人が評価してくれるわけではなく、校正を行う主体が自らの責任で評価するという原則である。さらに第三者(認定機関)が不確かさ評価の妥当性を審査して信頼感の裏付けを与えようとしている。
一般に校正は、その不確かさが小さければ小さいほど価値は高い。しかしながら新しいトレーサビリティ制度で重要とされていることはむしろ、校正の主体が不確かさを適切に評価しているかどうかである。認定機関の役割は校正事業者の不確かさの大小を審査するのではなく、校正事業者が表明した不確かさが技術的観点から妥当であるかどうかを審査することにある。国際相互承認はある意味では、それぞれの校正主体が宣言している校正の不確かさに対して信頼感を表明することであるともいえよう。
このようにして校正を行うものは国立機関であれ民間事業者であれ、高価な設備と高度なスタッフで、小さな不確かさでもって高額の校正手数料を取ってもよいし、逆に安価な設備とそこそこの不確かさでもって廉価な手数料で効率的に校正事業を行ってもよい。いずれを取るかはその国や事業者の戦略と意志、市場ニーズによっている。
トレーサビリティ制度導入のねらい
校正事業者の認定制度は10数年前からヨーロッパに普及し始めたが、この制度の原型はそれより以前にイギリスで考え出されたといわれている。その当時特にイギリスではEUの経済統合の動きは顕在化してなく、ドイツや日本の工業製品がその品質を誇っていた時期である。従ってイギリスの当初のねらいはむしろ自国の工業製品の品質向上にあったと考えられる。品質管理の高度化のためにISO9000シリーズ規格とともに新しいトレーサビリティ制度を導入し、民間の校正事業者を認定することによって計測の信頼性を全国的に向上させ、その結果イギリスの工業製品の品質向上を目指すという産業技術政策であったと思われる。
その後EUの経済統合が進んで通商問題としての新たな側面が浮上し、最終的にドイツも同調するに至って新しいトレーサビリティ制度はEUの一貫した通商産業政策として完成度を高めてきた。このようにISO9000シリ-ズ規格や新しいトレーサビリティ制度の背景には通商問題だけでなく、当初は産業技術政策としての問題が潜んでいたと考えられる。この点が新しいトレーサビリティ制度の第4のポイントである。
新たな品質管理の手法
国際貿易のグローバル化は最終製品だけでなく、部品やコンポーネントレベルで特に活発になっている。いままで日本では企業の系列関係が強く、部品、コンポーネントから最終製品の組み立てまで系列内で一貫して行うことが多かった。そのために部品やコンポーネントの品質管理手法をいち早く開発し、それが国際的な競争力の一つの源泉になったといわれている。しかしながら他方では系列の内部で個別的に発展した品質管理手法は、必ずしも汎用的、普遍的な形を取らなかった。
一方経済のグローバル化は部品やコンポーネントレベルで広く起こっており、これらの品質確保こそがグローバルな通商での要件となった。この動きの結果、系列内にあった部品、コンポーネントの製造業者が独自性を強め、自らの責任で品質を管理し表明する必要に迫られている。ISO9000シリーズ規格はそのための品質管理システムであり、他方新しいトレーサビリティ制度はそのための計測管理のツールである。新しいトレーサビリティ制度では、そのような独自性を強めた企業が信頼性の高い計測を行うのを容易にしている。必要な精度の校正が必要なときにすばやく、認定校正事業者を通じて得られるような仕組みを提供している。この点が新しいトレーサビリティの第5のポイントである。
国際同等性は外国から求められるものばかりではない。同等性はそもそも双方向・対等の性格をもっており、こちらが求められるものは、すなわちこちらが求めるものでもある。信頼性を保証された計測器を使うことが外国の顧客や規制当局から求められたとき、国際相互承認したトレーサビリティ制度のもとで認定事業者で受けた計測器の校正が効力を発揮する。同時に日本の企業や規制当局が、外国企業に対して日本のトレサービリティ制度(より広くは日本の基準認証制度)と同等であることを要求するのは当然である。これにより日本の製品の品質管理をより合理的に行うことができるようにもなろう。
科学技術データの信頼性
これまで通商や産業技術に対して新しいトレーサビリティ制度がもたらすものを述べてきたが、科学技術データの信頼性の向上に対しても新しいトレーサビリティ制度は果実をもたらすと考えられる。この点が新しいトレーサビリティ制度の第6のポイントである。
科学技術上の数値データは従来から国境を越えた普遍的なものと信じられてきた。計量標準に関していえば1875年にメートル条約が締結されて以来、世界的に統一の原則で動いてきたし、この100年間に計量標準の活動の重心は法定計量から科学計量へと大きく発展し、標準の精度は著しく向上した。現在でも計量標準の高精度化と広範囲化が進んでいる。従って原理的には科学技術データは世界のどの国で取得されても同等のはずである。
しかしながら現実はそれほど楽観的なものではなく、1960年代におけるアメリカと旧ソ連の間での宇宙開発競争(そしておそらく軍事技術における競争)においてそれが問われることになった。アメリカは初期における宇宙開発の遅れを取り戻すべく理科教育の改革をはじめとした新しい政策を実施したが、米航空宇宙局(NASA)が国立標準局(NBS)と連携してとった手段は全米におけるトレーサビリティ制度の確立であった。宇宙機やロケットの部品・コンポーネントレベルでの品質のわずかな低下が、プロジェクト全体の成功を左右することが強く認識されたのである。得られた結論は、使用するすべての計測器の校正は、NBSの国家標準にしかるべき連鎖でつながっていなければならないというトレーサビリティの概念そのものであった。
筆者は1980年代のはじめにアメリカの大学で熱物性計測の研究していた頃、研究者たちがしきりに温度計など計測器のNBSトレーサビリティを問題にしていた。計測器の校正精度が明らかでないと測定値の不確かさを評価する根拠が得られないからである。また1990年代から地球環境問題とからんで盛んになってきた宇宙からの地球観測においても、NASAは国立標準技術研究所(NIST,旧NBS)と連携して搭載観測機器の校正に熱心に取り組んでいる。
一方旧ソ連でも宇宙開発と軍事技術の基礎データを自から取得する必要があったことは、アメリカと同じ状況であった。おびただしい量の熱物性データが旧ソ連の学術論文で発表され、またそれらを集大成た大部のデータブックも発刊された。
今後日本あるいは世界で熱物性データに限らず科学技術データが収集・評価されるようになるとき、計測器のトレーサビリティはその信頼性に関する一つの重要なポイントとなるべきであろう。計測器の校正が認定校正事業者で確実に行われ、その不確かさが第三者によって確認されているということが科学技術データの信頼性を左右することになろう。一般に科学技術データに要求される精度は、通商で要求される精度よりも高いことが多いから、用いた計測器がどの国のトレーサビリティ制度のもとで校正されたかを明示することにより、データの信頼性を裏付ける有効な手段を提供することができる。国際相互承認の枠組みでは、校正事業者は計測器の校正証明書に、第三者によって認定された不確かさを95%の信頼度で明記することになっている。このことは科学技術データの信頼性向上に大きな役割を果たすであろう。
メートル条約加盟国の使命
国家標準の同等性を表明する仕組みは、現在国際度量衡委員会と地域計量組織のもとで構築されつつある。まもなく枠組みが合意され、国際比較の第一陣の結果が出てくると思われる。その中では各量とその範囲ごとに互いに同等な国家標準が国名と機関名つきで発表される。それらの結果はデータベースに入れられ、インターネットを通して世界中のどこからでも容易にアクセスすることが可能になる。もし相互承認協定に名を連ねていなければ、国際社会から未だ同等とは見なされていないという厳しいものとなるし、名を連ねていれば国際社会から認められたものとなる。
振り返ってみれば19世紀の後半にメートル条約が締結されてまず行われた事業は、各国間に存在した標準の不統一を解消し、世界共通の標準を設定することであった。メートル条約加盟国の努力は大きいものがあり、計測結果の整合性の確保が世界的なレベルで開始された。次に、1960年代からメートル条約のもとで行われたSI単位の普及事業は、基本量だけでなく日常的にさまざまな分野で使用される量について、単位の統一を図るものであった。国家間に存在する単位の不統一だけでなく、技術分野間に伝統的に存在する単位の不統一を解消しようという意図であった。SI単位の考えは現在世界的に広く受け入れられ、この事業は大きな成功をおさめたといえよう。
現在国際度量衡委員会を中心としてメートル条約加盟国に課されている課題は、本稿の主題である新しいトレーサビリティ制度確立の事業である。メートル条約の歴史上第三の大きな事業となろうとしている。これは国立標準機関の間の相互承認の問題であると同時に、国立標準機関と標準ユーザとに関わる世界的な問題でもある。国立標準機関は従来のようにその非日常性と権威のゆえに他の世界から一定の距離を置き続けるのか、それとも国際トレーサビリティを世界のユーザに明確に示して、国家計量標準の実態を率直に提示するのか、岐路に立っている。標準の国際社会はすでに後者の方向に大きく踏み出しつつあると思うが、標準ユーザからより深い信頼感を得るために国際トレーサビリティの明示には一層の決断が必要であるように見える。日本も国益を考慮しつつ、メートル条約加盟国の一員として国際トレーサビリティ体系の明示と発展に向けて、しかるべき役割を果たしていかなければならない。
国家計量標準は非日常的に高精度であり、ともすると社会の関心が薄い。これは日本だけの傾向ではなく、世界のどこの国でも多かれ少なかれ状況は同じであろう。そのような状況の中で各国の標準研究機関は独自性を出して、それぞれの存在を主張している。標準と社会との結びつきという面では、新しいトレーサビリティ制度はまさにその接点に位置する。これに正面から取り組むことにより、日本だけでなく世界的な規模で標準と産業・社会との結びつきが強められると考えている。メートル条約の今後の発展にも大きく関わるであろう。
おわりに
本稿は計量標準と大多数の一般標準ユーザとの係わりという点に着目してトレーサビリティ制度を中心に述べた。一方トレーサビリティ制度がカバーしていないものとして、特殊な計測器の開発や特別に高精度の校正がある。これらは計量研究所から依頼試験制度や共同研究、技術指導という形で社会にサービスを行っている。これらもまた日本の科学技術と産業の競争力向上に対する重要な国家的支援であることを付記する。
日本のトレーサビリティ推進事業に関わった人々の証言-その3-
計量計測分野における国際組織と国際比較の役割(3rd February, 2000.計量研 今井秀孝)
現状の認識
西暦2000年を迎えるに際して、我々人間は自らが作り上げた情報化社会の大きな産物であるコンピューターに関連する問題で大いなる実験と心配をしたことになる。すなわち、人間からみればいたって単純とも思える課題をも含めて、コンピューター依存の機器やシステムにおいて安全・保全管理の面から試されたともいえるのではないか。結果的には、細かい問題を除けばおおむね良好な経過のようで、用意周到ともいえる準備体制の成果とみるべきであろう。しかし、今回の経験を何事もなかったとして忘れてしまうのではなく、この準備と実験の成果の蓄積を何らかの形で残すことを期待したい。
我々の計量計測の世界でも、「何の問題もなく測ることができて当たり前」と思われているようであるが、そのような状況が得られるまでの多大な準備、確認と経験を大切にして、その過程の記録を実績として残し、正当に評価できるようにしたいものである。
さて、昨年までの計量界では、メートル条約、法定計量、工業標準化などいろいろな分野で国際的な基準認証や相互承認に関連する課題がとり上げられて、多くの準備がなされた時代であったと考えられる。今年、2000年は数字の上だけでなく、世紀末、21世紀への助走の1年として、実践と実証を含めた仕上げが求められる大切な年と考えられる。
1.国際的連携の必要性 ・国際組織がなぜ必要か: Blevin Report(メートル条約)、 Birkeland Study(法定計量)
・GlobalとRegionalな位置づけ:中央集中と地域分散
・国際ルールの制定:Global MRA、ISO/IEC 規格・ガイド
2.国際組織の現状 ・メートル条約: CIPM/BIPM、量別諮問委員会、中央・ 地域の合同委員会(JCRB)
・法定計量:OIML/CIML、TC・SC活動
・適合性評価:規格及びガイド作り;ISO/CASO、ISO/REMCOの活動
3.国際比較の役割と位置づけ ・国際比較による実証:Key comparisons
・国際比較の結果の活用: Database 化
4.国内活動の国際整合化 ・国家標準の拡充と整備:知的基盤の整備、独立行政法人化 と連動
・認定認証関連の活動:JCSS、JNLA、JAB
5.今後の課題
・国際組織における日本の役割:先進対応と地域対応
・APEC傘下の計量活動:APMP、APLMF、APLAC、
PASC、PAC
1.国際的連携の必要性(略)
2.国際組織の現状
1)国際計量基本用語集(VIM)と不確かさ表現のガイド(GUM)の編集・発行:7機関
・国際度量衡局/国際度量衡委員会(BIPM/CIPM)
・国際法定計量機関(OIML)
・国際標準化機構(ISO):発行機関
・国際電気標準会議(IEC)
・国際純正応用化学連合(IUPAC)
・国際純粋応用物理学連合(IUPAP)
・国際臨床化学連合(IFCC)
合同会議/JCGM:Joint Committee for Guides in Metrology、上記7機関で構成
GUM(WG1)、VIM(WG2)の改定を検討中
・国際試験所認定会議(ILAC): JCGMに参入の予定
2)メートル条約の組織
国際度量衡総会/CGPM: 加盟48ヶ国、準メンバー制を新たに導入(1999)
国際度量衡委員会/CIPM: 18名の委員で構成
国際度量衡局/BIPM: 研究機関と事務局機能(約70名)
10諮問委員会/CCXX:長さ、時間・周波数、質量関連量、測温、電気磁気、 測光・放射、放射線、物質量、音響・超音波・振動、単位
WG活動:力、圧力、密度、湿度、粘度、硬さ、流量
JCRB:Joint Committee of the Regional Metrology Organizations and the BIPM
RMO:APMP、EUROMET、COOMET、MENAMET、SADCMET、SIM
3)OIMLの組織
国際法定計量機関/OIML:加盟57カ国
国際法定計量委員会/CIML:加盟国委員で構成
国際法定計量事務局/BIML
技術委員会・作業委員会/TC・SC
国際勧告・技術文書の作成
開発会議:途上国対応
4)ISOの組織
総会: 加盟134カ国(正:90、通信:35、購読:9)
理事会: 諮問委員会: CASCO(適合評価)、INFCO、COPOLCO、DEVCO
技術管理委員会/TMB: 専門委員会/TC、REMCO(標準物質委員会)
3.国際比較の役割と位置づけ
1)従来の国際比較の意義
最高精度の確認: 理論と実際の確認、学術的意義/チャンピオンデータ
関係国間の実力評価: 技術能力の証明
2)現在の国際比較の意義と役割
メートル条約におけるグローバルMRA(相互承認協定)と連携
・国家計量標準の同等性の確認[MRAの第一の目的]
・校正証明書発行の根拠: 信頼性評価を付与(不確かさ表記)[第二の目的]
・グローバルとリージョナルの連携
CIPM Key comparisons, RMO Key comparisons, Supplementary comparisons
・計量標準機関の品質システム管理を重視: 管理システム評価、技術能力評価
・比較データ評価の定式化: RMO内評価→JCRBでの評価→CIPMでの評価 →国際データベースへの登録
・国際相互承認の根拠: 国際データベースの活用
3)種々の国際比較
3-1 メートル条約
・CIPMによる基幹比較
・RMOによる基幹比較(APMP等)
・RMOによる補完比較(APMP等)
MRAにおける付属書の記述内容
A:グローバルMRAに参加する国家計量機関とそのロゴ、署名者の一覧
B:CIPM基幹比較・PMO基幹比較・RMO補完比較の結果
宣言した量の各値と不確かさ、基幹比較の参照値とその不確かさ
参照値からの偏差とその偏差の不確かさ、参加機関相互の同等性
C: 量、校正対象及びタイプ、校正の範囲及び単位、校正条件とその値、
拡張不確かさ(95%)、参照標準器、トレーサビリティ、国際比較のリスト
D:基幹比較のリスト
E:RMOとJCRBに委託される事項
3-2 OIMLによる国際比較
・型式試験の相互承認を目的:OIML計量証明書制度
・二国間比較における技術確認:日本/NRLM-オランダ/NMi(非自動はかり)、日本/NRLM-ドイツ/PTB(非自動はかり)、予定: 日本-イギリス、日本-韓国。
3-3 試験所認定会議による国際比較
APLACによる国際比較
4..国内活動の役割と位置づけ(略)
5.今後の課題
・国際組織における日本の役割:先進対応と地域対応
・APEC傘下の計量活動: APMP、APLMF、APLAC、PASC、PAC
1)国内組織の整備と充実
日本学術会議: 第5部標準研究連絡委員会
通商産業省:計量行政審議会基本政策部会、計量標準部会、計量士部会
計量研究所、物質研、電総研、製品評価技術センター
認定機関:JCSS(校正機関)、JNLA・JAB(試験所認定)
工業技術院:国際計量研究連絡委員会、知的基盤整備特別委員会
・国内外の組織体系:標準供給/トレーサビリティ:JCSS 現場の計量器→事業所内標準室→計量検定所・検査所・認定事業者→国家標準→国際標準
・計量法、工業標準化法、OIML国際勧告 品質システム要求:管理文書(管理マニュアル)、技術基準(技術文書)。校正証明書、試験成績書。
2)国際組織での活動
メートル条約:CGPM、CIPM、CCXXでの応分の役割/MRAの実施
OIML関連条約:型式承認試験結果の相互承認
ISO・IEC:適合性評価の実践/試験所認定、製品認定、技量の認定
ISO/CASCO(適合評価委員会)
ISO/REMCO(標準物質委員会)
3)APEC傘下/アジア太平洋地域での計量活動
APMP(メートル条約関連):議長国/事務局:NRLM
CIPMの諮問委員会との連携:TC
執行委員会活動、JCRB(合同委員会)での活動
APMP基幹比較及び補完比較の実施
技術基準の策定と技術審査、
APLMF(法定計量関連)
執行委員会での活動
APLAC(試験所認定関連)
技能試験への支援、技術審査への参画
PASC(工業標準化関連):議長国
PAC(品質システム認定関連)
共通の概念/ことばと意味
・知的基盤とは
科学技術に関連する知的資産が組織化され、研究開発活動、経済活動の円滑化・促進のために広く経済社会に体系的に提供されるもの。
・知的資産
科学データ,計測方法(試験評価)、計量標準・標準物質
・適合性評価:各種の試験や検査により製品や方法、サービスが所定の要求を満たしているかを評価するシステム
Keywords:検査、試験、校正、品質システム、品質保証、トレーサビリティ、不確かさ、国際比較、技能試験、適合性評価、相互承認、環境
監査、校正証明書参考文献
1)国際情勢
・今井秀孝:計量標準の分野における国際的動向-相互承認への関心の高まり-、計量研ニュース、Vol.47, No.6(1999), 1/2.
・計量分野の国際関連図(前出)
・今井秀孝:計量計測分野における国際相互承認制度の最近の動向、第18回国際計量計測展:Interneasure'98特別講演会(1998年4月)
2)計量研究所紹介
・今井秀孝:計量研究所の現状と将来展望:工業技術、Vol.40,No.8(1999), 5/8.
・計量研究所の概要:要点メモ(後出)
3)知的基盤整備関連
・産業技術審議会・日本工業標準調査会合同会議、知的基盤整備特別委員会中間報告、 1999年12月.
4)国際会議等
・今井秀孝:第21回国際度量衡総会とグローバルMRAへの署名:計量研ニュース、Vol.48, No.1(2000), 1/3.
・瀬田勝男:第15回APMP総会及び関連会議出席報告:計量研ニュース、Vol.48, No.1(2000), 5/7.
・APMPの紹介: パンフレット
5)計量単位
・今井秀孝:計量単位の現状-SI単位への完全切替え-、標準化と品質管理, Vol.52,No.10(1999), 4/9.
・国際単位系(SI)第7版日本語版、計量研究所訳・監修、日本規格協会(1999).
6)不確かさ評価
・今井秀孝編集:計測の信頼性評価-トレーサビリティと不確かさ解析-、日本規格協会、1996年1月発行.
・飯塚幸三監修、今井秀孝編集:ISO国際文書「計測における不確かさの表現のガイド」統一される信頼性表現の国際ルール、日本規格協会、1996年11月発行.
・今井秀孝:計測における不確かさ表現の歴史的経緯と展望、計測と制御、Vol.37, No.5(1999), 300/305.
・今井秀孝:「誤差・精度」から「不確かさ」へ:信頼性表現の統一に向けて、精密工学会誌、Vol.65,No.7(1999), 937/940.
ISO/IEC 規格及びGuide類(主なもの)
[参考資料]
ISO/CASCO(適合評価委員会)の活動:認定・認証関連
ISO/REMCO(標準物質委員会)の活動:標準物質の認証と技術基準の作成
品質マネジメント(品質システム管理)
ISO 9000-1 (JIS Z 9900) 品質管理及び品質保証の規格-選択及び仕様の指針-
9001 (JIS Z 9901) 品質システム-設計、開発、製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
9002 (JIS Z 9902) 品質システム-製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
9003 (JIS Z 9903) 品質システム-最終検査・試験における品質保証モデル
9004-1 (JIS Z 9904) 品質管理及び品質システムの要素-指針
10006 (JIS Q 10006)品質マネジメント-プロジェクトマネジメントにおける品質の指針
環境マネジメント(環境監査)
ISO 14001 (JIS Q 14001) 環境マネジメントシステム-仕様及び利用の手引き
14004 (JIS Q 14004) 環境マネジメントシステム-原則、システム及び支援技法の一般指針
14010 (JIS Q 14010) 環境監査の指針-一般原則
校正機関・試験所の認定
ISO/IEC Guide 22: 供給者による適合宣言
ISO/IEC Guide 25 (JIS Z 9325) 校正機関及び試験所の能力に関する一般要求事項
Guide 58(JIS Z 9358) 校正機関及び試験所の認定システム-運営及び承認に関する一般要求事項
Guide 43-1(JIS Z 9343-1) 試験所間比較による技能試験 第1部:技能試験スキームの開発及び運営
Guide 43-2(JIS Z 9343-2) 試験所間比較による技能試験 第2部:試験所認定による技能試験スキームの選定及び利用
審査登録機関及び製品認証機関の認定
ISO/IEC Guide 61 (JIS Z 9361)認証機関及び審査登録機関の認定審査ならびに認定機関に対する一般要求事項
Guide 62(JIS Z 9362) 品質システム審査登録機関に対する一般要求事項
Guide 65(JIS Z 9365) 製品認証機関に対する一般要求事項
Guide 67:相互承認の方法
標準物質
ISO Guide 30 (JIS Q 0030) 標準物質に関連して用いられる用語及び定義
Guide 31 (JIS Q 0031) 標準物質の認証書の内容
Guide 32 (JIS Q 0032) 化学分析における校正及び認証標準物質の使い方
Guide 33 (JIS Q 0033) 認証標準物質の使い方
Guide 34 (JIS Q 0034) 標準物質の生産のための品質システム指針
Guide 35 (JIS Q 0035) 標準物質の認証-一般的及び統計的原則
計量研究所の研究・業務内容と最近の活動
2000年1月現在
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平成11年度定員:204名(研究131、行政73:技術行政を含む) 予算:約38億円。4研究部(量子、熱物性、力学、計測システム)、大阪計測システムセンター、総務部、研究企画官、首席研究官(2)、国際計量研究協力官、統括標準研究調査官、計量標準管理官、産学官連携推進センター
1、計量標準の確立に関する研究:国内標準整備と国際整合化
国際的に整合性のとれた国家計量標準を設定し(メートル条約)、それを維持・供給することにより国内のトレーサビリティ体系(JCSS)を確保する。さらに、次世代を目標に入れた新しい計量標準を開発する先導的研究を行う。
SI基本単位の実現:長さ(m)、質量(kg)、温度(K)、時間(s)、物質量(mol)
SI組立単位及び工業量:力(N)、圧力(Pa)、体積、流量・流速、密度、粘度、
[SI:国際単位系] 湿度、角度、速度、加速度、振動、硬さ、衝撃値、幾何形状、材料物性値(光学的、力学的、熱的)、物性標準物質、標準データの取得、データーベース(データーセット)
2、計測技術の開発と試験方法の研究[科学・技術の基盤]
共通基盤的あるいは国として先導的に取り組むべき高度計測技術・試験技術の開発
・縦割り的技術:量子力学、光エレクトロニクス、機械計測、流体計測、材料計測、超音波計測、電磁気計測、・・・
・横断的技術:計測数理工学(統計数理)、品質工学、情報工学、画像工学
・極限計測技術:超高温、極低温、超高圧、高真空、微小光学、マイクロ(ナノ)マシン技術、ナノメトロロジー
[例]磁気浮上方式の質量標準、アボガドロ数の決定、原子泉方式時間標準
3、計量法に基づく検定検査業務 [日常生活に密着]
・基準器検査:質量計、温度計、圧力計、体積計、密度計、濃度計、・・・
・型式承認試験:ガスメーター、水道メーター、タクシーメーター、・・・
・国際相互承認:OIML(国際法定計量機関)証明書制度、国際勧告への対応
・都道府県の計量検定所との連携: 工場、商店等の計量器の信頼性確保
4、国際的な活動(Global and Regional )[国家代表性]
・メートル条約:国際度量衡総会(1999年10月)、国際度量衡委員会・同諮問委員会
・OIML関連条約(国際法定計量機関)国際法定計量委員会
・ISO(国際標準化機構):適合評価委員会(CASCO)、標準物質委員会(REMCO)
・ILAC(試験所認定協議会)
・APEC(アジア太平洋経済協力会議)傘下の計量関連活動
APMP(メートル条約関連) :1999年11月より議長国
APLMF(法定計量)、APLAC(試験所認定)、PASC(工業標準化)、PAC(品質システム)
5、当面の課題
・国際比較(基幹比較)に基づく国家間の相互承認(MRA)
・国内計量標準の整備と拡充(JCSS/トレーサビリティ)
・アジア太平洋地域のリーダーとしての役割分担
計量計測分野の最近の動向
・計量法の改正と施行(1993年)
JCSS(Japan Calibration Service System)の創設
長さ、温度、質量の国家標準の設定と供給開始
その後、力、圧力、振動加速度を追加(1997年)
湿度、流量・流速、硬さを追加 (1998年)
・APEC関連会議(1995年 大阪宣言)
2005年(主要国2000年)までの相互承認計画
メートル条約(APMP)、法定計量(APLMF)、試験所認定(APLAC)、工業標準化(PASC)、品質システム(PAC)の5分野
・科学技術基本計画(1996年)
計量標準・標準物質の整備、人材確保、支援体制整備
知的基盤整備特別委員会の設置・報告書作成(1998年)
計量標準センターの開所(1998年)
国際計量標準センター(2000年:予定)
標準物質センター(2001年:予定)
・JIS法の改正(1997年)
JISに基づく試験所認定制度の発足/JNLA
評定委員会の活動、審査員研修制度
APLACによる認定(JNLA、JAB:1998年)
・日本学術会議第5部の提言(1997年)
計量標準研究の重視、国家的支援体制の確立
IMEKO世界大会の日本開催(1999年6月、大阪)
・アジア太平洋地区国際会議の日本での開催(1997年)
APMP/1996年)、APLMF/1997年、APLAC/1997年
メートル条約 法定計量 試験所認定
・メートル条約に関する計量標準研究所長会議(1997年、1998年)
国家計量標準の同等性の相互承認、校正証明書の相互承認を目指す
基幹国際比較の実施/結果の信頼性評価:国際トレーサビリティの重視
・第21回国際度量衡総会とグローバルMRAへの署名(1999年)
地域計量組織(APMP等)と国際度量衡局の役割分担/JCRBの設置
第21回CGPMにてMRAの署名(1999年10月)
APMPの議長国就任(1999年11月、NML→NRLM)
(本稿は計量計測データバンクにも掲載された)