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国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏
ケルビンは“特定の物質の性質とは無関係”に温度目盛を定めようとして「熱力学的絶対温度目盛」を考え出した(1848年論文)。
 熱力学温度目盛の原則が明らかにされたことにより「1定点目盛」と「2定点目盛」とはまったく同等であって、もはや、液体膨張による目盛での2定点目盛の優位性は存在しないことが明白となったが2定点目盛は継続された。 そしてケルビンの提案からおよそ100年後に「1954年の熱力学的温度目盛定義変更」がおこなわれ、「1定点目盛」が復活した。
Adoption of the International Temperature Scale ITS-68 in 1968 by Mr. Jitukichi Ogawa

当時の計量研究所からの標準供給は、基準器検査に限定されていたので抵抗温度計、熱電対の校正を受けた記憶がない。しかし、共同研究で作り上げた社内のトレーサビリティの不確かさは共同研究で立証されることになる。
国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏
(計量計測データバンク編集部)

国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏


計量史を探る会2023大阪における研究発表をする小川実吉氏 演題は 国際温度目盛(国際温度標準)の変遷2。

国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏

(本文)
研究発表1

国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏

1、はじめに

 トレーサビリティ体系が整っていない1960年頃の温度標準は、国際温度目盛を実現することで維持していた。国際温度標準(国際温度目盛という)は定義定点とその温度値は規定されるものの実現装置は言及されていない。数少ない参考資料を頼りに装置を手作りから始めて温度定点を実現していた。温度計測になじみの薄い諸氏には退屈な話かも知れないが、トレーサビリティ体制が未整備時代の標準維持作業の一例を紹介する。

2、1948年国際温度目盛の1960年修正

1927年に制定された(ITS-27)は、20 年後には改訂されることになっていたようで1948年国際温度目盛(ITS-48)が発効した。ところがこの20年の間は世界大戦が勃発したなど研究環境、産業界の状況も混乱が続いた時期であった。

 ITS-27の制定から20 年が経過したこと、第2次世界大戦が終結したこともありITS-48が制定されたものの、戦後の産業界の著しい進展に伴い温度計測の正確さの社会的な要求は強まり、永年にわたる諸国での研究成果を精査して慎重な国際的討論を得て、1960年の第11回国際度量衡総会において計測の基礎標準についての幾つかの重要な決議のなかで国際温度目盛が修正された。

 国際温度目盛の改訂は20年の間隔をおく当初の合意を遵守することにして、修正の内容は、これまで用いられてきた「1948 年国際温度目盛」に代わり今後は「1948年国際実用温度目盛1960年修正版」が用いられるようになった。

 その頃の国内世相は、トランジスタラジオが普及し始め、計測器では電子管式自動平衡計器は搭載する増幅器がトランジスタに代わってきたので「電子式自動平衡計器」と称されるようになった。
 ITS-48・1960年修正に話を戻すと、ここでの大きな変更点は、1定点目盛が採用されたことである。

 それは、18世紀に「温度を数量的に表すための尺度」の合理的な考え方が3者から提案されたことまで遡る。1724年にファーレンハイトは3個(塩化アンモニウムと氷とによる寒剤の温度、氷点、体温)、1730年レオミールは1個(氷点)、1742年セルシウスは2個(氷点と水蒸気点)の定点を用いて温度目盛を構成すすることを提案したのである。3者の温度目盛構成の詳細は参考文献1に譲ることにする。液体膨張式の温度計が専ら利用された時代には1定点目盛よりも2定点目盛が合理的と判断された。ところで、熱現象の定量的な研究が進むにつれて温度目盛の実現に役立たせうる現象も公表されるようになった(固体や気体の影響、気体の圧力、熱起電力など)。

 ケルビンは“特定の物質の性質とは無関係”に温度目盛を定めようとして「熱力学的絶対温度目盛」を考え出した(1848年論文)。

 熱力学温度目盛の原則が明らかにされたことにより「1定点目盛」と「2定点目盛」とはまったく同等であって、もはや、液体膨張による目盛での2定点目盛の優位性は存在しないことが明白となったが2定点目盛は継続された。

 そしてケルビンの提案からおよそ100年後に「1954年の熱力学的温度目盛定義変更」がおこなわれ、「1定点目盛」が復活した。

 レオミールの考えまで遡ったことになる。ここでの最大の出来事は、氷点よりさらに優れた温度定点として「水の三重点」が確認されて、(水の三重点)-(氷点)=0.01度とし、氷点は273.15Kと判定されたことである。

 1960年の新協約は、温度値の差異が生じないので修正版と呼ばれ、改訂とは区別された。名称は「1948年国際温度目盛」を「1948年国際実用温度目盛」(IPTS-48)と改称して修正をほどこした。

 IPTS-48による目盛は、6個の温度定点と3個の補間方法(標準白金抵抗温度計(SPRT)、標準白金/白金ロジウム10 %熱電対(S熱電対)、放射温度計)で構成され、この構成の原理は従来と変わらないが、定点の呼び名と内容及び補間方法の細かい規定が改められた。目盛の定義のための6個の定点(従来の第1次定点)は定義定点と改称され、酸素の沸点、水の三重点、水の沸点、硫黄の沸点、銀の凝固点、金の凝固点が規定され、さらに、硫黄の沸点の代わりに亜鉛の凝固点を利用しても良いことになった。

 SPRT に用いる白金の純度は、0 ℃での抵抗値に対する100 ℃での抵抗値の比 R100/R0で規定されるが、従来の「1.3910より大」を厳しくして「1.3920より小でない」とした。

 IPTS-48の発効を受けて、社内のトレーサビリティ体系は見直しを余儀なくされた。新しく採用された SPRTの開発と水の三重点の調達である。SPRTはITS48に適用する製品を製造販売していたので新製品の開発が始まった。水の三重点セルの国内事情は、漸く旧計量研究所において開発が進み標準研究用として使用されるようになっていた。

 師匠が奔走して水の三重点と新しいSPRTに関する共同研究が開始された。共同研究が始まり、新しい SPRT の試作品ができた頃に、水の三重点セルと新しい SPRT を相互に取り交わして、研究機関と温度計メーカにおける校正結果の比較による水の三重点とSPRTの性能と信頼性を確認するプロジェクトが始まった。

 そのとき水の三重点セル3本の提供を受けることになり、旧計量研究所(東京都板橋区加賀)から旧㈱北辰電機製作所(東京都大田区下丸子)の間を社有車で運搬したが無事を祈りながら長い時間を費やして気遣いをした記憶が残っている。水の三重点を実現する作業の初体験は、緊張の極みであった。当時、保存装置が無いので、図1-1に示す特別注文で誂(あつら)えた大形魔法瓶に水の三重点セルを氷詰めにしていた。

図1-1 水の三重点装置

図1-2 水の沸点装置

 水の三重点の実現作業は、前日からセルを氷詰めにして十分に冷やしておき、ドライアイスを細かくして測定用のウエル(中心の孔)に充填してウエルの周りに氷を生成する。氷生成作業は苦労もあったが詳細はいろいろ公表されているのでここでは省略する。

 新しく開発した SPRT が IPTS-48への適合性を確認するには、定義定点の水の沸点の正確さが要求される。当時、信頼性が保証されたNPL(英国立物理学研究所)が開発した水の沸点装置(図1-2)を自前で製作して使用した。この水の沸点装置は「恒圧装置」の構造に特徴があり大気圧と蒸気圧を平衡に保つ工夫がなされて性能が優れていると評価されていた。これらの定義定点の実現と新しいSPRTが完成して社内のトレーサビリティ体系は IPTS-48に対応できた。

 当時の計量研究所からの標準供給は、基準器検査に限定されていたので抵抗温度計、熱電対の校正を受けた記憶がない。しかし、共同研究で作り上げた社内のトレーサビリティの不確かさは共同研究で立証されることになる。

 1962年に計測自動制御学会は、温度計測研究専門委員会が発足した。この研究専門委員会には三つの小委員会が設置されて、次のテーマについて共同研究が実施された。
①常温近傍の温度定点の実用化研究。
②工業的温度パターン計測に関する研究。
③ 純金属線溶融法による熱電対校正方法の汎用化研究。

 この研究専門委員会に師匠が委員としての参加し、① の小委員会に所属して活動が開始された。やがて、ナフタレン凝固点実現の研究が割り当てられ実験担当者に指名されて1964年に実験を開始した。ナフタレンの凝固点は、およそ80 ℃であることが知られていた。


図1-3 ナフタレン凝固点装置

(1)ナフタレン凝固点セル


(2)凝固点装置図


ナフタレン沸点は、ITS-48の二次基準定点(218.0 ℃)に採用されて、実用標準として使用していた。それ故、ナフタレンは試薬として純粋なものを容易に入手することができた。

 実験装置は自家製で師匠のアイデアを製作図に書いて取引のある業者に外注して作った。ナフタレン凝固点装置は図1-3に示す。

 定点セルは耐熱ガラス製のセルにナフタレンを入れる。実験は、内径34mmのセルに250 gのナフタレンを入れ、炉内で100 ℃程度に熱してナフタレンが完全に融解したことを確かめてから、セルを冷却し凝固を起こさせてプラトーを確認した時の温度値を測定した。凝固点温度を正確に測定する適切なプラトーを実現するための冷却方法を見出すには試行錯誤があった。

 温度校正は、自社製のSPRTを用い、抵抗は電位差計及び標準抵抗器により測定した。
 研究を重ねやがてナフタレン凝固点(70.72 ℃)実現の手法が確立し再現性は0.01 ℃以内が確保できた。この校正値は、旧計量研究所の値と0.01 ℃以内で一致していた。それらの結果は、計測自動制御学会第4回学術講演会(1975年7月 神戸大学)で師匠が発表し模造紙にポスター作りをした。

 共同研究の特色をフルに活用する趣旨で各実験室の温度目盛の相互比較が実施された。共同研究の成果の一般性を確証するには実験者の手による定点実現操作を試みることである。その際、専門家はそこに立ち会って指導はするが手をくださない。実験者は定点セルおよび操作マニュアルに基づき作業をする。という取り決めのもとに持回り測定が実施された。

 当時はトレーサビリティ体系の概念はなくて、各実験室の温度標準は独自の方法で IPTS-48に準拠して温度目盛を維持していた。共同研究の成果は、各実験室の温度目盛の相互比較の意味をもった。

 1965年11月に小委員会の主査と実験担当委員(いずれも旧計量研究所)の二方が当社にジフェニルエーテル三重点(26.870 ℃)セルを持参いただき、定点を実現して自社のSPRTによる比較校正をおこなった。ジフェニルエーテル三重点の実現は初めての経験であったが手順を教えてもらいながら無事に校正を終えることができた。校正結果は、26.88 ℃が得られ旧計量研究所の校正値と0.01 ℃以内で一致していた。その結果について、国際温度目盛をやや簡単化した手順で実現し社内標準を維持している。その手順および技術水準は温度計メーカにふさわしいものであると小委員会主査は評価された。

 これらの成果は、水の三重点セルを入手することができて新しい SPRTを開発して IPTS-48の温度目盛を実現できた成果であり一人しみじみと大きな喜びをかみしめた想い出である。

 社内事情は、温度計(熱電対、測温抵抗体、放射温度計(光高温計など))の製造拠点が本社工場から奈良工場へ移管された。

 その頃、奈良工場へ初めての出張が巡ってきた。まだ東海道新幹線がない頃なので移動は夜行列車を利用していた。たしか、3月初旬で東京は寒さが緩み春の気配がしていたが、奈良は寒いと聞かされて冬の装いで出かけた。

 東京駅を23時前に出発する「急行大和」湊町行きの列車に乗り込んだ。当時の「急行大和」は、東京駅を出発し、名古屋駅から関西線に入り終点の湊町までの列車で、湊町駅は現在の JR難波駅である。

 初めての寝台列車の乗り心地は快適で熟睡した。やがて夜が明けて8時過ぎに奈良駅に降り立つと冷え込んでいて寒さで一気に目が覚めた。教えて貰った通り駅構内の食堂は8時半から営業しており朝食を済ませて会社へ向かった。

 会社の所在地は「南京終町(みなみきょうばて)」といいバス停の読みを間違えないよう緊張して出勤した。この時から奈良工場とは長い付き合いが始まった。

3、1968年国際実用温度目盛(IPTS-68)への移行

 1968年国際実用温度目盛(IPTS-68)は、第13回国際度量衡総会(1967年)において承認されて、新しい国際的な温度測定標準として用いられることになった。基本の温度は、熱力学温度であり、量記号は T、単位はケルビン、単位記号は K、1 Kは水の三重点の熱力学温度の1/273.16である。セルシウス温度、量記号tは、t=T-T0で定義され、ここでT0=273.15 K、セルシウス温度を表すための単位はセルシウス度(単位記号℃)で、これはケルビンに等しい。したがって、ケルビンとセルシウスの関係は、t=T-273.15 Kである。

 IPTS-68の定義は、幾つかの再現可能な平衡状態(表2-1の定義定点)に与えられた温度値と、これらの温度で目盛定め(校正)される所定の温度計(補間用計器)とに基づいている。これらの温度計の校正値と国際温度目盛の値(IPTS-68の温度値)との間の関係の定めは、公式によって与えられる。

 補間用計器の条件は四つの温度に区分された。13.81 Kから273.15 K(0 ℃)と0 ℃から630.74 ℃領域にSPRT を規定して使用する白金の純度に関する条件は、抵抗値(100 ℃)/抵抗値(0 ℃)値が1.3925以上とされた。 630.74 ℃(アンチモン凝固点)から1064.43 ℃(金の凝固点)は白金/白金ロジウム10 %(現・Type S)熱電対、1064.43 ℃金の凝固点以上は放射温度計で規定された。

 IPTS-68の主な変更点は次の通りである。①温度単位の定義が「水の三重点の熱力学温度の1/273.16を1ケルビン(K)と表現された。②低温領域が13.81 Kまで拡張された。③定義定点は表2?1の通り変更規定された。

 IPTS-68への移行は、まず定義定点の実現である。定点装置は市販品がないので専ら自分達で作ることにした。公表されたわずかな資料を頼りに設計、試作を繰り返して実用できる定点装置を完成することができた。

 定点装置の整備に当たっては工業用温度計メーカとしては産業界の使用実績を重視することにした。

 低温領域は産業界で使用される実用温度計がマイナス200℃以上にほぼ限定されていたので酸素の沸点までに留めそれ以下の温度域は一時棚上げとした。酸素の沸点装置は、図2-1に示すガラス製魔法瓶の容器を特別注文で製作した。容器に液体酸素を5リットル入れて放置すると外気の影響で沸騰はするが、安定した沸騰を継続させるために小型ヒータを挿入し、微小電圧を調節しながら印加した。

 水の三重点は図1-1の通り既に導入し、水の沸点装置は図1-2の通り実用化していた。金属の凝固点装置は、熱電対校正用については IPTS-48 採用の頃から文献(NBS CIRCULAR 590)を参考にして試作を重ね完成した図2-2の装置で対応できた。

 抵抗温度計校正用の金属の凝固点装置は、文献等を読み漁りながら図2-3に示すものを完して使用した。ここでは、錫の凝固点実現で過冷却が大きいのに驚嘆し、安定して凝固点プラトーを再現するのにいろいろ苦労を重ねた想い出がある。

表2-1 IPTS 定義定点の新旧対照

│名称 │T68(K) │t68(℃) │t48(℃) │t68-t48 │
│平衡水素の三重点│12.81 │-259.34 │なし │  ― │
│平衡水素の沸点 │17.042 │-256.108 │なし │  ― │
│ネオンの沸点 │20.28 │-252.87 │なし │  ― │
│酸素の三重点 │27.102 │-218.789 │なし │  ― │
│酸素の沸点 │90.188 │-182.962 │-182.97 │+0.008 │
│水の三重点 │273.16 │+ 0.01 │+ 0.01 │0 │
│水の沸点 │373.15 │ 100 │ 100 │0 │
│亜鉛の凝固点 │492.73 │ 419.58 │ 419.505 │+0.075 │
│銀の凝固点 │1235.08 │ 960.8 │ 960.8 │+1.13 │
│金の凝固点 │1337.58 │ 1064.43 │ 1063 │+1.43 │
 
表2-2 SPRT 用金属の凝固点

│名称 │温度(℃) │
│窒素の沸点 │-195.802 │
│水銀の凝固点 │-38.862 │
│氷点 │0 │
│インジウムの凝固点 │122.37 │
│硫黄の沸点 │444.674 │
│アンチモンの凝固点 │630.74 │
│アルミニウムの凝固点│660.37 │
│銅の凝固点 │1084.5 │
│パラジウムの凝固点 │1554 │


図2-2 熱電対用金属の凝固点装置

図2-3  ITS-68主な二次基準定点


 さらに大きな問題は SPRTの 条件が変更(性能向上)されたことである。対応は、規定に適合する高純度白金線を用いることは勿論であるが白金線の特性を忠実に実現する SPRT を作ることである。そのためには、構造(形状、巻枠の材質、白金素線に加わる張力を最小限にする巻き方など)、洗浄、焼鈍等々の技術開発が要求された。

 社内事情は、温度計の製造部署が奈良工場に移管されて技能者がいなくなって困っている処に物作りに長けた人が職場のメンバーに加わって SPRTの試作が本格化した。構造について種々検討を重ねて、NPLが開発したSPRTを文献から探し当てて物作り名人にチャレンジしてもらった。幸い隣の室にはガラス職人の仕事部屋があり連携して試作が進んだ。形ができると洗浄、熱処理、校正と分担して漸く完成にこぎつけた。

 素子部の構造は白金線(線径50 μm)をコイルに作り耐熱ガラス細管に入れて封入しU字型に加工したものである(写真2-1)。このSPRTは、当時の計量研究所、JEMICなどに納入して標準器として使用された。1971年頃に JEMIC で温度標準器として使用されていた NPL 型 SPRT が保存されていた。想い出深い逸品なので、うれしくて撮影してもらった(写真2-1、2-2)。


写真2-1 SPRT 抵抗素子


写真2-2 SPRT NPL 形


 社内のトレーサビリティは表2-2の二次基準点も併用して温度標準が維持できる体制が整った。

この頃の記憶に残るこぼれ話は、水の三重点のお守りである。

 苦労してようやく実現した水の三重点は出来るだけ長い期間保存したいが氷詰めなので廻りの氷が解けてしまえば三重点も氷が解けて終焉となる。それ故、毎日保冷用の氷は補充しなければならない。

 その頃、既に週休2日制になっていた。なんとか2日間は持ち堪えるが3日目は冷却用の氷が解けてしまい使用不能になった苦い経験を得て、土、日曜日のいずれかは出勤して氷を補充することにした。

 仕事に集中したいからと薄給の家計のなか無理をして自家用車(当時の大衆車:トヨタ・パブリカ)を月賦で手に入れて休日の氷補充に通った。温度定点の仕事など温度計校正に熱中していると遅い時間になることがあり自家用車通勤は重宝であった。通勤経路は会社を出て直ぐに多摩川に架かる通称「ガス橋」がありその付近は深夜になると警察官の検問があり停められることが度々あった。

温度計の要求も多様化して顧客と共同研究の機会があった。試作品を携えて顧客の実験室に赴き立ち合いで比較試験をするという事案が続いたことがある。ところが、評価する測定器は同等のものであった。

 顧客曰く、メーカはユーザより性能が優れた測定器で評価しないと信憑性が判断できない。返した言葉は、「同感であるが単価の安い温度計(センサ)の売上だけでコスト計算されるのでとても高級測定器の購入は難しい状況です」。

 そこで、顧客は、「温度制御システムを注文するのだからセンサは廉価かもしれないが、満足できる温度センサがなければシステムは構築できない。コストは制御システム全体を考慮して高性能の測定器を導入して温度計製品の性能は信頼性の高い評価をするように営業の役員に進言する。」と約束してもらった。

 顧客の意向が伝わって目出たく念願の精密抵抗測定器(L&N社、G-3型ミューラブリッジ)を購入することができた。この精密抵抗測定器は、SPRTの校正に役立つとともに新しい温度センサの評価にも活躍して顧客満足の製品を完成し納入した。

3、おわりに

IPTS-68採用に伴う新旧温度差(t68-t48)は工業用温度計にも影響を及ぼすほどであった。その値は、低温領域から常温付近はさほど問題にならないが高温になるに従い差が大きくなり、500℃では0.079℃600℃では0.15℃となり、1000℃では1.24℃、1500℃は2.2℃となった。

 この温度差は産業界をはじめ温度計測の全般に波及し関係法規、規格にも導入され、計量法は1972年、関係JISは1974年に改正された。

参考文献
1、高温測定の標準化研究、日本学術振興会製鋼第19 委員会第2分科会、昭和63年11月。
2、産業計測標準委員会総合報告書、財団法人日本産業技術振興協会産業計測標準委員会、昭和53年 3月。
3、産業計測標準委員会・電気部会 第2回研究会予稿集、昭和46年10月8日。
4、企業内計測管理、産業計測標準委員会・電気部会編、昭和49年3月。
5、温度標準のトレーサビリティの現状と問題点、産業計測標準委員会・温度部会第2回研究会予稿集、昭和47年4月18日。
6、生産技術における温度計測、産業計測標準委員会長さ部会温度部会、第2回合同研究会予稿集、昭和50年3月12日。
7、熱放射標準器の現状と問題点、産業計測標準委員会光熱部会、第2回研究会予稿集、昭和51年10月27日。
8、高田誠二:温度目盛の1960年修正について、計測第11巻第5号、昭和36(1961)年5月
9、髙田誠二:1968年国際実用温度目盛の成立とその波及効果、計測と制御 第8巻第4号、昭和44(1969)年6月。
10、工業技術院計量研究所、1968年国際実用温度目盛、コロナ社 昭和46(1971)年12月10日。
11、髙田誠二、他:常温近傍の温度定点の実用化研究、計測と制御、Vol.4、No.12、1965年12月。
12、小川実吉:メーカにおける温度標準の維持、計測技術、Vol.2、No.10、1974年。

[計量計測データバンク編集部 註]
1、上記の本文中の表の表記は講演資料のものがくずれております。
2、図は編集技術の未熟によって未掲載です。

[関連資料-1-]
計量史をさぐる会2023大阪 クボタ久宝寺事業センターで10月20日に開く

開催概要は以下のとおり。

共催(社)計測自動制御学会力学量計測部会。
協賛(社)日本計量振興協会、東京産業考古学会、日本技術史教育学会。
後援 日本計量新報社。

開催日時 2023年10月20日(金)。
会場 (株)クボタ久宝寺事業センター(大阪府八尾市神武町2-35)。
参加費 研究発表会 会員3,000円、会員外4,000円、懇親会4,000円。

プログラム

第一部 開会式(12:40~13:10)

主催者挨拶 日本計量史学会会長 山田研冶氏。
設営者挨拶 (株)クボタ精密機器ユニット長 吹原智宏氏。
来賓挨拶 大阪府計量検定所所長 柳生国良氏。
来賓挨拶 大阪府計量協会理事長 村上昇氏。

第二部 工場見学は(株)クボタ久宝寺事業センター (13:10~14:20

第三部 特別講演(14:30~16:10)
(株)クボタ移譲はかりの紹介。
東洋計量史資料館 館長 土田泰秀氏。
クボタトラックスケールの現在・過去・未来 (株)クボタ 瀬川浩一氏代表発表(共同作業者(株)クボタ 瀬川浩一氏、(株)クボタ計装 倉橋一夫氏、(株)クボタOB 島田吉昭氏)。
弊社117年のあゆみ (株)村上衡器製作所社長 村上昇氏。

第四部 研究発表(16:20~17:00)
1、国際温度目盛(国際温度標準)の変遷2 小川実吉氏。
2、羽田正見と佐藤政養の貨幣密度(比重)分析 山田研治氏。
第五部 懇親会(17:10~19:10)
会場 クボタ久宝寺事業センター内。

日本計量史学会「計量史をさぐる会 2023」大阪開催オプショナルツアー(10月21日、10:00~15:00)

期日 2023 年 10 月 21 日(土)
前夜宿泊地:新大阪駅界隈のホテル(各自で予約宿泊)。地下鉄 新大阪駅より。
10:00 
パナソニックミュージアム見学  松下幸之助像前集合。
10:05 見学開始。
見学
11:20 見学会終了。
11:30 パナソニックミュージアム出発。常翔学園バス(最大27人乗り)。
12:15 大阪工業大学梅田キャンパス到着。
12:20 21 階リストランテ翔21にて昼食(1,500 円)。
13:10 
大阪工業大学梅田キャンパスの施設見学 (ロボティクス&デザイン工学部)。
15:00 見学会終了、現地解散。

2023-11-06-2-adoption-of-the-international-temperature-scale-its-68-in-1968-by-mr-jitukichi-ogawa-

【資料など】

計量史をさぐる会2023大阪 クボタ久宝寺事業センターで10月20日に開く

「(株)クボタから移譲された工業用はかりの紹介」東洋計量史資料館館長 土田泰秀氏

「クボタ ラックスケールの現在・過去・未来」 (株)クボタ瀬川浩一氏、(株)クボタ倉橋一夫氏

国際温度目盛(国際温度標準)の変遷-1968年国際温度目盛(ITS-68)の採用-小川實吉氏

羽田正見と佐藤政養の貨幣の密度(比重)分析 山田研治氏

村上衡器製作所117 年の歩み 村上昇氏


2024年(令和6年)近畿地区の京都、滋賀、大阪の計量協会年賀交換会が相次いで開かれる(計量計測データバンク編集部)
京都府計量協会1月17日(水)、滋賀県計量協会1月18日(木)、大阪府計量協会1月19日(金)



関東甲信越計量団体連絡協議会「第二回計量大会」
(その1)

関東甲信越計量団体連絡協議会「第二回計量大会」(その2)

関東甲信越計量団体連絡協議会「第二回計量大会」(その3)

関東甲信越計量団体連絡協議会「第二回計量大会」(その4) データベース 葛飾北斎と浮世絵


「日本計量新報」今週の話題と重要ニュース(速報版)2023年11月16日号「日本計量新報週報デジタル版」
「日本計量新報」今週の話題と重要ニュース(速報版)2023年11月09日号「日本計量新報週報デジタル版」
「日本計量新報」今週の話題と重要ニュース(速報版)2023年11月02日号「日本計量新報週報デジタル版」


都道府県計量行政機関等の一覧(経済産業省ホームページにリンク)


山口県計量検定所 https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/88/ (左記にurlが変更されました)

計量検定所検査所など地方計量行政機関動き HPからの抜粋(2022年1月24日現在)

計量検定所検査所など地方計量行政機関の業務ニュース HPからの抜粋(2023年1月18日現在)

日本の計量士制度の概要

第21回全国計量士大会 2023年3月17日(金)ウェスティン都ホテル京都て開かれ123名が参加

第21回全国計量士大会 特集(写真集-その2-)

第21回全国計量士大会 特集(写真集-その1-)

第21回全国計量士大会 議事特集(その1)

第21回全国計量士大会 議事特集(その2)


メートル法と田中館愛橘、高野瀬宗則、関菊治の三氏(計量の歴史物語 執筆 横田俊英)

西秀記氏が初当選 2023年6月4日投票の青森市長選挙 57,062票 得票率43.1% 産学官連携で仕事創出を訴える

(国研)産業総合技術研究所
      ├
      ├計量標準総合センター
          ├
          ├
          ├
          ├工学計測標準研究部門
          ├物理計測標準研究部門
          ├物質計測標準研究部門
          ├分析計測標準研究部門
          ├
          ├小畠時彦(コバタ トキヒコ) (Tokihiko Kobata)
          ├


計量計測データバンク ニュースの窓-1-
日本の新聞社、メディア、情報機関など web検索(計量計測データバンク)
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社会の統計と計量計測の統計
一括表示版「社会の統計と計量計測の統計」
「計量計測データバンク」小論、評論、随筆、論文、エッセー、文芸ほか(目次版)
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社会の統計と計量計測の統計
   ├【分類1】計量計測機器と分析機器の機種別の生産統計
   ├【分類2】日本の計量計測と分析と科学機器などの団体とその業務(生産高などを含む)
   ├【分類3】日本と世界の経済などの統計
   ├【分類4】日本の計量計測分野の官公所(掲載は順不同)
   ├【分類5】日本の学会一覧
   ├【分類6】日本の計量計測と分析と科学機器などの学会(掲載は順不同)
   ├【分類7】計量計測と分析の政府機関、関連学会、団体ほか(未分類です)
   ├【分類8】化学関連学会と協会など
   ├【分類9】日本の学会(重複掲載あり)(すべてを集めているわけではありません。)
   ├【分類10】日本の計量計測関連した団体など諸情報(分類整理されない情報です)
   ├【分類11】日本の計量計測関連した未分類の諸情報
   ├【分類12】web情報総合サイト(設営途中です)
   ├【分類13】日本の計量法と計量関係法規
   ├【分類14】計量に関する国際機関と各国の計量標準の研究と供給に関係する各国の機関(海外NMI)
   ├【分類15】韓国の計量関連機関と団体ほか
          ├
          ├韓国でのセミナー講師を通じて感じた韓国の計量事情-その1-執筆 横田俊英
          ├韓国でのセミナー講師を通じて感じた韓国の計量事情-その2-「日本の計量器産業論-その1-」序論)執筆 横田俊英
   ├【分類16】
   ├一括表示版「社会の統計と計量計測の統計」
   ├
   ├韓国でのセミナー講師を通じて感じた韓国の計量事情-その1-執筆 横田俊英
   ├韓国でのセミナー講師を通じて感じた韓国の計量事情-その2-「日本の計量器産業論-その1-」序論)執筆 横田俊英

「日本は貿易立国ではない]輸出依存度は15.2%

日本は貿易立国ではない。輸出依存度は15.2%(セカイコネクトに掲載文書)


計量計測のエッセー ( 2018年1月22日から日本計量新報の社説と同じ内容の論説です。以下の項目は追録があります。)


計量計測データバンク ニュースの窓 目次



2023-04-24-proceedings-special-part-1-21st-measurement-manager-competition-in-kyoto-

(計量計測データバンク ニュース 2023年11月07日付)


計量計測データバンクニュース・デジタル版 目次
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日本の計量士制度の概要


第21回全国計量士大会 議事特集(その1)

第21回全国計量士大会 議事特集(その2)

第21回全国計量士大会 2023年3月17日(金)ウェスティン都ホテル京都て開かれ123名が参加

第21回全国計量士大会 特集(写真集-その2-)

第21回全国計量士大会 特集(写真集-その1-)

計量検定所検査所など地方計量行政機関の業務ニュース HPからの抜粋(2023年1月18日現在)

2021年度の国家公務員管理職は総合職が72.9%、一般職が21.6%
国家公務員 霞が関職員の係長級経験者採用試験 合格・採用の事例(計量計測データバンク編集部)
計量計測データバンク 動画ニュース-2-(2022年1月30日から)第20 回全国計量士大会2022 年3月 4 日(金)13:30~17:00に 主催は日本計量振興協会
第20回全国計量士大会が2022年3月4日に開催されます。参加者募集中【計量計測データバンク動画ニュース】ユーチューブ 動画
https://www.youtube.com/watch?v=KFPJ1DwiElE
第20 回全国計量士大会2022 年3月 4 日(金)13:30~17:00に 主催は日本計量振興協会主催 pdf
計量計測データバンク動画ニュース-1-(2022年1月以降に掲載の寄稿文と計量計測情報)
計量検定所検査所など地方計量行政機関動き HPからの抜粋(2022年1月24日現在)
全国の地方計量協会の会員向け情報の調査(2022年1月18日現在)(計量計測データバンク編集部)
経済産業省が係長級(一般職相当)の選考採用を実施 応募受付中 応募締め切りは2022年3月31日(木)23:59(受信有効)
経済産業省2021年職員採用実績と出身大学(計量計測データバンク編集部)
日本計量新報最新のニュース 2022年1月7日以降(計量計測データバンク編集部)
2022年オミクロン株による感染防止の国家政策と個人の対策

計量計測のエッセー
地球温暖化と花見酒の経済
2022年日本経済の素描
質量の地球での振る舞いかた
質量の起源を探る

2022年オミクロン株による感染防止の国家政策と個人の対策
地球温暖化への対応は「一汁一菜」で幸せを感じる生き方

富士山と日本にある7つの氷河 文章 夏森龍之介

日本経済の未来-雑記帳-(データベース)その1by計量計測データバンク編集部

地球温暖化論争の雑記帳(データベース)by計量計測データバンク編集部

素描 モノ余り日本と働きたくない人々(計量計測データバンク)

計量法と計量行にかかる政政府関係機関の人事異動(計量計測データバンク編集部2021年10月28日付)

経済産業省2021年職員採用実績と出身大学(計量計測データバンク編集部)

原油価格高騰とその背景(計量計測データバンク 編集部)

弁護士郷原信郎の池袋暴走事故「実刑判決に控訴せず」の見方 ユーチューブ動画を含む

交通事故報道の背後にある警察庁の意思と国家権力のジャーナリズム支配

自動車の社会的費用とその負担

東池袋プリウス暴走事故で運転者に禁錮5年判決 2021年9月2日東京地裁

東池袋暴走事故 判決文全文 禁固5年 東京地裁判決 令和3年9月2日


東池袋プリウス暴走事故で運転者に禁錮5年判決 2021年9月2日東京地裁

2020年度東大卒業者就職先 学部卒は楽天が院卒はソニーがトップ

経済産業省元職員二人追送検 コロナ給付金詐取1500万円に膨れる

交通事故などの裁判とその在り方

和歌山毒カレー事件のことを調べておりました(計量計測データバンク編集部)

2021年 機械設計技術者試験 2021年11月21日(日)実施 全国17会場 日本機械設計工業会主催

2021年6月11日以後の気になるニュースです。(計量計測データバンク デイリーニュース)

和歌山毒カレー事件とその真相(犯罪の証拠とされた砒素鑑定の成否を検証する資料集)

お子さん/お孫さんに勤めてほしい企業ランキング調査 国家公務員が第1位

ビオンテック上席副社長カタリン・カリコ博士とCOVID-19対応mRNAワクチンの開発

国民のワクチン接種率7割でCOVID-19を抑えられる

計量計測データバンクニュース 経済産業省人事(2021年3月31日付け)

計量計測トレーサビリティのデータベース(サブタイトル 日本の計量計測とトレーサビリティ)
2019-02-05-database-of-measurement-measurement-traceability-measurement-news-
計量計測トレーサビリティのデータベース(計量計測トレーサビリティ辞書
2019-02-07-1-database-of-measurement-measurement-traceability-measurement-news-
計量計測トレーサビリティのデータベース(計量計測トレーサビリティ辞書)-2-
2019-02-07-2-database-of-measurement-measurement-traceability-measurement-news-
計量計測トレーサビリティのデータベース(計量計測トレーサビリティ辞書)-3-
2019-02-07-3-database-of-measurement-measurement-traceability-measurement-news-

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